Home > 連載 > 前田エクストラ・ブリュット「樽発酵・樽熟成」
前田エクストラ・ブリュット
シャンパーニュを取り巻く話題をちょっと? かなり? 辛口で切り取ります
前田行紀
シュワリスタ・ラウンジではシャンパーニュ・アーカイヴのデータ作成を担当。豊富な知識と旺盛な探究心で、「シャンパーニュの求道者」の異名を持つディープ・シュワリスタ。このコラムでは泡業界を愛と俯瞰、両面で斬っていく。
Vol.9
樽発酵・樽熟成
07.8.22 up
皆様、日本も梅雨明け、もう夏の予定など決まっている事かと思います。

先日、とあるお店で、シャンパーニュの好き嫌いを談義しているお客様がいらっしゃいました。
よく聞いてみると、かなり色々なシャンパーニュを飲まれているようで、その方は樽発酵のベースワインを使用したシャンパーニュが好きだという話をしていました。

実際に最近の日本の傾向を見ても、シャンパーニュを飲みなれた方は樽からくる熟成感と深みのあるシャンパーニュを好む傾向があるように感じています。

シャンパーニュでもワイン同様、昔は樽で発酵を行っていました。しかし技術革新が進み、昨今では一度に多くのワインを発酵できて、温度管理も楽、掃除も楽なステンレスタンクが主流となっています。

しかしながら現在でも一部のこだわりあるメゾンや昔ながらの手法を重んじる造り手は樽発酵、樽熟成を行っており、それらのシャンパーニュが日本だけではなく北米等でも人気を博している為に、近年では樽発酵が見直される傾向にあります。しかしこれは手放しに喜べる事ではありません。

現在樽発酵を行っている造り手は多くはありませんが、そのいずれもが優良な造り手として知られています。(クリュッグ、ボランジェ、ジャック・セロス、エグリ・ウーリエ、ヴィルマールなど)
では何が問題なのでしょう。樽発酵・樽熟成の特徴としてはいくつかありますが、一般的に分かりやすいのは、ワインに樽の風味を持たせる事でしょう。しかしこの樽発酵・樽熟成を行っていると一言でいっても、一様な使われ方をしているわけではありません。全てのベースワインを樽発酵させているメゾンもあれば、一部を樽発酵させている、またはリザーブワインのみ樽熟成させたものを用いるメゾンまで様々です。樽を使用することはオークの香りをつけ深みを増すだけではなく、ステンレスとは違い、木の小さな隙間から入ってくる空気によってワインが緩やかに酸化する効果もあります。(マイクロオキシジネージョン効果)

これらの特徴は樽の大きさや、材質、古さ、過去に何が入っていたかだけでなく、使用するブドウによっても仕上がったワインに大きな差が出てきます。この感覚は1日2日で習得できるものではなく、満足のいく出来に仕上げるまでには何年もの試行錯誤が必要です。

安易な樽の使用はベースワインに強い樽香を付与する事にもなりかねず、テロワールが失われる可能性があります。つまり過度な樽熟成はシャンパーニュそのものの繊細な味わいを壊してしまう可能性があるのです。

樽発酵は手間もかかり、大手のメゾンが昔のように樽を使用するようになる事は恐らくありませんが、北米・日本での売名目的で安易に樽発酵・樽熟成を行って作ったシャンパーニュが出回らないことを祈っています。

本来樽は料理で言う調味料。あくまでメインは原料のブドウからできるベースワインなのです。

それでは皆さん今宵も良い泡を。
SH

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