Home > 連載 > 前田エクストラ・ブリュット「景気とシャンパーニュ」
前田エクストラ・ブリュット
シャンパーニュを取り巻く話題をちょっと? かなり? 辛口で切り取ります
前田行紀
シュワリスタ・ラウンジではシャンパーニュ・アーカイヴのデータ作成を担当。豊富な知識と旺盛な探究心で、「シャンパーニュの求道者」の異名を持つディープ・シュワリスタ。このコラムでは泡業界を愛と俯瞰、両面で斬っていく。
Vol.20
景気とシャンパーニュ
09.3.30 up

お酒の中で、「シャンパーニュが最も景気と連動している」と良く言われています。逆に言えば、シャンパーニュの消費量で現在の景気も分かるということです。 ここ10年ほど右肩上がりであった日本のシャンパーニュ市場も昨年から少し変化が見えてきました。

始まりは2007年、この年は原油の高騰と、ワインの値上が顕著な年でした。燃料サーチャージが注目された年でもありますね。この年は日本ではプチバブルでもあり過去最高本数のシャンパーニュを消費した年でもあります。

2008年は最高の売り上げを記録した2007年に比べ、一転して減少し日本で約5%の消費減となり、ここ数年の勢いは感じられませんでした。 昨年といえば、リーマン・ブラザース破綻はまだ記憶に新しいことでしょう。リーマンブラザーズが破綻した2008年9月までの出荷量は世界ベースで1億9420万本。これは2007年度と比較して2.41%の減少でした。8月までの累計は2007年度の0.92%減と比較すると、 シャンパーニュが景気に左右されやすい飲み物であることは頷けますね。昨年上半期で既にシャンパーニュの輸入量が減少しており、景気衰退のサインは出ていたわけですね。

さて2008年といえば1月、そして4月と大手のメゾンがシャンパーニュの価格を軒並みアップさせたことはシャンパーニュ愛好家の皆さんには記憶に新しい事でしょう。 もちろん2007年から高騰していた原油の価格やユーロ高などが元となり輸入コストなどが上昇し、結果として2008年に販売するシャンパーニュの価格に影響が出てきたわけですが、ここにはインポーターの苦悩決断もあったことでしょう。

なぜなら輸入会社は契約しているメゾンに対して、ある一定の売り上げを行うことを元に契約されています。一般的な市場原理では値上げをすれば売上げ本数は落ちます。 しかし輸入コストやユーロ高が影響した結果値上げに踏み切らざるを得なかった輸入会社もあったのではないでしょうか。

しかし今年に入り、値上げとは逆行した動きが出てきています。まずは1/1にニコラ・フィアットのプレスティージュクラスであるパルム・ドールが大幅に値下げを敢行しました。 この値下げは現在良く聞かれる円高差益還元という理由ではないそうですが、ニコラ・フィアットだけではなく、銘柄によっては円高還元等で値下げする動きも出ているようです。

しかし実はこれも大変なことで、現在の市場に出回っているシャンパーニュは、ユーロ高や原油高の時期に購入した在庫が残っている可能性が多分にあります。 この場合ほとんど輸入会社の利益が出ない、もしくは赤字になってしまいます。しかし周囲が値下げしている中では同調せざるを得ない状況もあり、輸入会社の苦悩は大きいでしょう。

また値下げを嫌うメゾンや銘柄もあります。ラグジュアリーなイメージで売っているメゾンや銘柄は値下げする事によって購買者からのステータス感も失うことになりかねません。しかし周囲が値下げをすることによって売り上げの減少などの弊害が出てきます。

もちろん私たち消費者からすれば値下げは大変ありがたいことなのですが、2009年のシャンパーニュ市場は昨年に比べると消費者には優しく、そして輸入会社にとっては厳しい年となりそうです。

それでは今宵も良い泡を。

SH

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