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sH レポート
業界向けの試飲会やイヴェントの模様、インポーターやメゾンの話題などを、シュワリスタ視点でレポートします
Vol.3
07.10.26 up

『アンドレ・クルエ』当主来日

text: 岩瀬大二 photo: 編集部 藤原
取材協力: (株)ヴィントナーズ

ブジー村に本拠を置き、『RMの雄』として世界的に人気の高いメゾン『アンドレ・クルエ』の若き当主、ジャン・フランソワ・クルエ氏が来日。7月27日、株式会社ヴィントナーズのご協力により、シュワリスタ・ラウンジ単独インタビューおよび当主自らによるテイスティング / レクチャーを受けました。

多忙な氏のスケジュールの中、午前10時のセッティング。それでも氏はにこやかな笑顔で「普段はもっと早い時間から飲んでいるから、気にしないで」とうれしいご挨拶。レクチャーではシャンパーニュ造りに関する真摯で真剣な目線が感じられたが、一方で、ハリー・ポッターのダニエル・ラドクリフ似のルックスからこぼれるひとなつっこい笑顔と軽妙なジョークでシーンを語る姿も印象的。
革新に踏み込む軽やかさと、しかし一本芯の通ったトラッドな男らしさが同居するのは、アンドレ・クルエのシャンパーニュの特徴そのままのような気がしました。

以下、テイスティング・ノートです。

Tasting Note

シルヴェール・ブリュット

ピノ・ノワール100%。ブジー村グラン・クリュを100%使用。ノン・ドサージュ。クルエ氏曰く「化粧をしていない女性(笑)。ワイン本来の味」。力強いミネラル、ピュアな口当たり。内側からエネルギーが沸き立つような印象も。「あなたの中の『ドラゴン』を呼び覚まします(笑)」(クルエ氏)。官能的というよりは、真っ直ぐな興奮。スウェーデン王室のお気に入り、北欧への輸出が多いことなどに関連しているのか、魚卵や鹿肉のローストなど北のクセのある料理との相性が良さそう。クルエ氏もこのマリアージュを推奨。ノン・ドサージュということで寿司との相性もよい。

グラン・レゼルブ・ブリュット

こちらもピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワール。同じくグラン・クリュ100%。7.5g / Lと低めのドサージュ。テイスティングしたもののリザーヴワインは98、00、01でシルバーと同じ(配合比も一緒)だが、全く違う印象。料理と合わせるよりも単体で楽しみたい繊細さと滑らかな余韻がある。クルエ氏からのおススメシーンは「仕事を終え、シャワーを浴びたあと、キューっと冷やしたコレを楽しんでいただきたい」。香りはじめは鮮やかでフレッシュな白桃系だが、徐々に花開き、最後はフローラルな香りがジワジワと上がってくる。クルエ氏からはこんな提案。「彼女に花束とシャンパーニュのプレゼントをするっていいですよね。でも、フローラルなグラン・レゼルブ・ブリュットなら、花束いらず。オトクでしょ(ニヤリ)」。さすが(笑)。

ミレジム 2003

「エチケットは可憐な高級下着みたいですね」というsHに苦笑いのクルエ氏。ピノ・ノワール50%、シャルドネ50%。ドサージュ7.5g / L。ミレジムこそがアンドレ・クルエを表現するといわれ、名声を確立した存在でもある。03は、なんともチャーミングな風味。欧米の男性が描くような日本女性のエキゾチックでコケティッシュな雰囲気とでもいうのだろうか…。03は残念ながら猛暑の影響で、シャンパーニュとしては100年持つようなワインではないけれど、その分、深みよりも可愛らしさが際立つような表情が現れた。これはこれで存分に楽しい。クルエ氏からのプレゼンテーションは「都会で飲むシャンパーニュと言うよりも、田園風景の中、リラックスした環境でゆっくり味わってほしい」。なるほど、刺激よりも癒し。03のぶどうは、品質自体は申し分ないものなので(アルコールのポテンシャルも高い)、深く考えるよりも、気軽に楽しんでいただきたい。ミレジムだからといって構える必要はない。そんな楽しい真理を教えてくれるシャンパーニュ。

sH エクスクルーシヴ インタビュー

「本当に良いヴィンテージを造れるチャンスというのは
とても限られています。人生の中で4回あるかどうか…。」

ブジー村に本拠を置き、『RMの雄』として世界的に人気の高いメゾン『アンドレ・クルエ』の若き当主、ジャン・フランソワ・クルエ氏(以下JFK)にその長い歴史とシャンパーニュ造りのこだわりをお伺いしました。

まず、これまでのご自身のシャンパーニュ造りの歩みをお聞かせください。

JFK: 高校の環境が恵まれていました。ボランジェやポメリーといったメゾンのオーナーの子どもたちと一緒の高校で、横のつながりができましたね。それからシャンパーニュに特化したアヴィズの醸造学校に進みました。その後、スティルワインの勉強もあって、ナパ(カリフォルニア)、イタリア、スペインと回って、現在に至ります。

アンドレ・クルエはかなり長い歴史だと聞いています。何代目ですか?

JFK: えーと…ルイ16世の側近として働いていたころだから…計算してみてください(笑)。おそらく15代か20代か。

ルイ16世の側近ですか!?

JFK: ええ。近衛兵とでもいうのでしょうか。ナポレオンの時代には、シャンパーニュ輸送のガードを請け負っていて、それをきっかけにシャンパーニュ造りに。サーベル…「フレンチカタナ」のスペシャリストの家系で、サーベルで人を切っていたプロから、サーベルでシャンパーニュを空けるプロになったという感じでしょうか(笑)」

さて、今日いただいたシャンパーニュですが、ピノ・ノワールのさまざまな特徴が楽しめました。シルバー・ブリュットはミネラルとエナジー、グランド・レゼルヴ・ブリュットはふくよかさと滑らかさ。アンドレ・クルエのピノ・ノワールへのこだわりを感じます。

JFK: カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ…、これらは世界中、どこでも優良なものが造られています。でも、僕が思うには、ピノ・ノワールは、ブルゴーニュとシャンパーニュが一番良いものが造れる。気候、土壌が最適。特に、シルバー・ブリュットは、ブジーのピノ・ノワール100%。とても良く特徴が出ていると思いますよ。

最後に、ご自身のシャンパーニュ造りで心がけていることをお聞かせください。

JFK: 人生の中で、ワインメーカーとしてできる時間はとても短い。本当に良いヴィンテージを造れるチャンスというのはとても限られています。人生の中で4回あるかどうか…。だから、不味いシャンパーニュを造っている時間などありません。そのチャンスに最大限に取り組めるように毎日、力を蓄えること。それを心がけています。それから畑を耕す際には、「将来の子孫」からこの畑を借りているという気持ちで。私のワインメーカーとしての人生は短くとも、次代に継いでくれる人がいますからね。

アンドレ・クルエについての情報はこちら

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