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sH レポート
業界向けの試飲会やイヴェントの模様、インポーターやメゾンの話題などを、シュワリスタ視点でレポートします
Vol.29
13.01.18 up

『マリー・クルタン(Marie Courtin)』
生産者インタビュー

取材協力:(有)ヌーヴェルセレクション
(http://www.nouvellesselections.com/)
text:前田行紀
photo:前田行紀

sH エクスクルーシヴ インタビュー

【マリー・クルタン概要】
シャンパーニュ地方の南に位置するオーブ県、その小さな村Polisot(ポリゾ)村に2.5ヘクタールの畑を持つマリー・クルタン。非常に生産量が限られており、日本にも限られた本数しか輸入されておりません。今回は初来日の醸造家ドミニク・モローさんにインタビュー。彼女の夫は同じ地区でシャンパーニュメゾンを営むPiolot。その父から畑を譲り受けて現在のマリー・クルタンがあります。初めての日本を楽しまれているドミニクさん。輸入元の方々とカジュアルな勉強会の中、彼女からビオディナミに対する強い信念が表れていました。

こんばんは、私自身マリー・クルタンの名前は昨年初めて知ったのですが、生産者であるドミニクさんとシャンパーニュの名前が異なりますが、シャンパーニュ名の由来を教えてください。

DM: 2000年に父が他界し私が現在の畑を継承しました。そこからブドウ栽培を始めました。名前の由来は、私のひいおばあさんの名前がマリー・クルタンという名前でした。彼女は馬を使って自然な畑仕事をしていました。私もそのひいおばあさん同様に自然な仕事がしたいと考えて、私の造るシャンパーニュにこの名前を冠しました。

2000年に畑を継承して初出荷が2009年ということですが、それまではどのような活動をしていたのでしょうか。

DM: 2009年に初のシャンパーニュ(2006年もの)を出荷しましたが、それまではブドウ栽培を行いながら他の生産者に販売していました。
2005年にビオディナミを始め、2006ヴィンテージから自社用に仕込み始めました。

ビオディナミの栽培方法は様々な規制があり一般的には大変だと思われますが、2005年ビオディナミ栽培に踏み切ったのはなぜでしょうか?

DM: 私自身小さいころから化学物質をまったく受け付けませんでしたし、シャンパーニュの生産を始める以前から、自分たちで取る食事等も、家庭に植えてあるビオ野菜を使っていましたし、肉類も自分で飼っている家畜をたべていました。このように私たちの普段の生活そのものが自然ですから当然のことかもしれません。しかしビオディナミはやはりリスクがあります。2000年に継承して5年間悩み続けましたが、これが私のフィロソフィーだからシャンパーニュ造りもビオディナミで行うことを決意しました。それ以前に父がセレクション・マサルで非常に良い木々を残してくれたことも私の財産です。

セレクション・マサルでよい木々を持たれているということですが、セレクション・マサルとはどのような作業になるのでしょうか。

DM: 父が行った作業ですが、40年をかけてブドウの木々を観察して、この木は病気になりやすい、この木は実をよくつけるというような特徴を観察して強い樹を残していく作業です。よい樹を選択して、枝を苗木屋に持っていき、株にして、よくない樹を抜いて代わりに植えかえる。
これはクローンとは違います。クローンは本当に同じ樹になり複雑味がなくなると考えます。
セレクション・マサルは何十年という時間がかかりますが、父がそれを残してくれ大変ありがたいと思っています。

なるほど、ところで話は変わってオーブ県と言えばピノ・ノワールという印象があります。マリー・クルタンでも100%ピノ・ノワールのブランドノワールを作っていますが、このオーブの土地ではその他の、たとえばシャルドネなどとは土地の相性もしくは気候条件が悪いのでしょうか?

DM: そうですね。確かにオーブはピノのイメージが強いと思います。これには2つ理由があると私は思います。まずオーブは土壌が粘土質です。
しかし、シャンパーニュにおけるシャルドネは、チョーク質に植えられているものが評価されていますよね。粘土質の土壌に植えられているシャルドネは、決して不味いわけではないと思いますが、こうしたイメージもあって、「オーブで育てるべきブドウはピノ・ノワールではないか?」と考える生産者が多いのではないでしょうか。
また、地域的なことで言えば、オーブでは早霜があり、シャルドネの生育サイクルの中で直接その影響が出てしまうこともありますね。
それからシャルドネではありませんけど、同じ白ブドウのアルバンヌが1920年〜1930年代には植えられていました。これは非常に酸が高いブドウで気候の変動を受けやすいブドウなので、1960年代に多くの生産者が作るのをやめました。しかし現在は温暖化で酸が足りないことも起こり得ることなので、今アルバンヌ(白ブドウを)を植えることはよいかもしれないですね。

白ブドウのイメージがあまりないオーブですが、来年3月に新しく発売するキュヴェはブラン・ド・ブランということですが、オーブのシャルドネのみでシャンパーニュを造ろうとしたきっかけは何でしょうか。

DM: もちろん私たちはシャルドネの畑も持っています。純粋にシャルドネでシャンパーニュを造りたい、様々な事に挑戦したいというのは最初にありました。私は土地のテロワールを表現するには非常にシンプルでならなければならないと考えています。ピノ・ノワールだけ!単一収穫年!単一の区画。複数の年数、複数の区画を混ぜると私としてはテロワールの表現がぼやけしてしまうのではないかと考えています。

ではこの新キュヴェの味わいや特徴を教えていただけますか。

DM: 香りは樽の風味。樽発酵・樽熟成をしているので、いろいろな方向に広がります。縦に深く広がるというよりは、横に複雑に広がるようなイメージで、余韻は長いと思います。

ありがとうございます。では今回の新キュヴェを含めて現在リリースしている3種類のシャンパーニュに対して、愛好家にどのようなシチュエーションで飲んでもらいたいかを教えてください。

DM: レゾナンスは友達がたくさん集まっているときにアペリティフで飲んでほしい。
レフロサンスやエロカンスはレストランで本当に特別な人と午後の時間にお2人でゆったり飲んでほしいですね。

マリー・クルタンの本拠地はオーブ県ですが、日本人はシャンパーニュといえばランスやエペルネのイメージを強く持っています。その方たちにオーブのお勧め観光スポットなどがあれば教えていただけますか。

DM: まずはトロワの町です。大聖堂もありますし、みなさんが思われている以上に素敵な街なのでぜひ訪れてください。もうひとつはアンドュイエット。トロワの名物ですので、それをお食べにいらっしゃるのも良いですよ。シャンパーニュの畑に関してもモンターニュ・ド・ランスはなだらかな丘にブドウ畑がある印象ですが、オーブは一つ一つの畑が急斜面だったり、多様性に富んでいますのでそれを見るのも楽しいと思います。大きな白い石で建てられている家もオーブ特有のものですし、私たちの村のポリゾから10kmほど走ったところにチーズで有名なシャウルスもあります。この辺りは造り酒屋がたくさん集まっていてアルティザン的な雰囲気が残っており楽しんでもらえるかと思います。

ありがとうございます。最後に日本のシャンパーニュファンに何か一言いただければ。

DM: 私たちは常に私たちの畑を感じていただけるシャンパーニュを造りたいと考えていますのでぜひ楽しんでください。余計な策を弄さないでシンプルで純粋にシャンパーニュを造っています。エロカンスは1200本しかない。相当少ない本数ですので手作り感を楽しんでいただければと思います。

子供のころから化学物質を受け付けなかったモローさんの作るヴィオディナミシャンパーニュはキリッとしたぶれない芯がありながらもどこか優しい味わいでした。

Line Up

Résonance Brut

ピノ・ノワール100%。畑はポリゾ村。平均樹齢30年。現在販売中のものは、2007年産100%の事実上のミレジメ。ドザージュは8g/l。キュヴェ名の「レゾナンス」は、「共鳴、響き」の意味です。とてもクリーミーな口当たりで、高級白ワインのような深いコクがあります。爽快なメンソールの風味は、このシャンパンが真に完成されたものであることを表しています。

Effloresence Extra Brut

ピノ・ノワール100%。畑はポリゾ村。平均樹齢45年のVV。現在販売中のものは、2007年産100%の事実上のミレジメ。100%をブルゴーニュ樽で発酵・熟成。エクストラ・ブリュット表記ですが、ドザージュ・ゼロのノンドゼです。キュヴェ名の「エフロールサンス」は、「開花(花が開くように美しく熟成してゆく)」という意味。樽発酵に由来するバニラやブリオッシュのほのかな香味が、幸せな気持ちにさせてくれます。

Eloquence Extra Brut Blanc de Blancs

シャルドネ100%。畑はポリゾ村。平均樹齢25年。現在販売中のものは、2008年産100%の事実上のミレジメ。100%をブルゴーニュ樽で発酵・熟成。エクストラ・ブリュット表記ですが、ドザージュ・ゼロのノンドゼです。年産1200本の限定作品。キュヴェ名の「エロカンス」は、「豊かな表現力」という意味。熟成したシャルドネならではの、ブリオッシュのような香ばしい風味をご堪能いただけます。

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