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INTERVIEW

SHレポート
『ドゥ・ヴノージュ』輸出部長インタビュー

コルドン・ブルーの誇りと流儀

001日本では「新顔」と思われているシャンパーニュ・メゾン。だが、実は由緒ある名門であることも多い。シャンパーニュ ドゥ・ヴノージュもそのひとつだろう。輸出部長であるジュリアン・マルティンさんにお話を聞いた。

「当社のはじまりは、スイスとイタリアの間でのワイン貿易。その後、1837年、シャンパーニュに拠点を構えて、ワインづくりをスタートしました。モエ・エ・シャンドン、ボランジェ、アヤラなどとならぶ、シャンパーニュの中でも古くから続くメゾンです」

その歴史を彩るのは、ドゥ・ヴノージュの定番キュヴェである『コルドン・ブルー』を巡るストーリー。エチケット、黒地に威厳と爽やかさを併せ持った青いたすきがけのライン。

「1851年、今もわが社のフラッグシップであるコルドン・ブルーが生まれました。このシンボルには2つの意味があります。ひとつは、ヴノージュ家の故郷であるローザンヌの近くに流れている川の流れ。もうひとつはフランスの王様の騎士団(16世紀、アンリ三世の精霊騎士団)がつけていた青いリボン。これは聖なる魂の象徴です。有名な料理学校である『ル・コルドン・ブルー』が校名をつける際に、実はわが家に名前の使用許可を申し出られました。もちろん、お使いいただきました。後は、1912年、マーテルの高級コニャックである『コルドン・ブルー』も同様です。G.H.マムの『コルドン・ルージュ』のモチーフも、もともとわが家が所有していました。1860年代、我々のファミリーの一員と、マムのファミリーの一員が結婚する際に、そのお祝いでお譲りしたというエピソードもあります」

由緒正しきアイコン。シャンパーニュらしい華やかなエピソードと歴史を持つドゥ・ヴノージュ。だからこそアグレッシブなマーケティング戦術よりも変わらぬスタイルや品質を守る努力を重視する。

「我々のワインづくりのルールは19世紀に確立しました。たとえば一番絞りのみを使う、ぶどうは慎重に選ぶ、長期熟成を行うこと。熟成に関してはノン・ヴィンテージであっても3年。そして、栽培農家とのリレーションシップ。我々はネゴシアンとして、ぶどうの80%は買い付けていますが、栽培農家は2,3世代、関係が続いているところばかりです。お互いに、なにを考えているのかがわかるところと組みたいんです」

我慢強さ。それは単に頑固ということではない。ブランドネームの譲渡にしても、栽培農家との関係にしても、豊かでゆるやかなリレーションシップの表れ。マーケティング的な拡大も拒んでいるわけではなく、そこにも豊かでゆるやかな考えがある。

「現在、展開している国は40。メインはフランス、欧州です。アメリカや日本でも、もちろん展開していますが、その市場で何万本売ろうというよりも、ちゃんと哲学を共有できるパートナーを探すことが先決。長く一緒に、品質とブランドを守って提供できるパートナーと一緒に、じっくり展開したいという思いが強いんです」

繊細と大胆の幸せなハーモニー

003ブランドの哲学どおり、スタイルは守るが頑固なばかりではない。「なにか」だけを強調しないバランスのよさは、香りや味からもわかりやすく表現されている。

「そのとおりです。コルドン・ブルーであれば、ピノ・ノワールはしっかりした骨格。ピノ・ムニエは、フルーティーさがもたらす丸み、繊細さ。そしてシャルドネからくる華やかさ、輝きも大切な要素です。ロー・ドザージュ(コルドン・ブルーは7.5mg/l)も、それぞれの個性をバランスよく表現するための手段です」

2002のミレジメも「好例です」とジュリアンさんは語る。

「パワフル、しっかりしたストラクチャーを70%のピノ・ノワールから。15%のピノ・ムニエのアロマがそれらをやさしくし、同じく15%のシャルドネがエレガンスを」

ピノ・ノワールの力強さや骨格は確かにわかりやすいのだけれど、それが圧力をかけてこない。鍛えに鍛えて絞り込んだ筋肉質の体とオーラをふんわりとしたドレスで包んだ女性。ある種倒錯的だけれどでもわかりやすいキャラクター。安心感はあるけれど決して軽い人じゃない。そんなイメージが浮かぶ。

「ブラン・ド・ブランはいかがでしょう?フレッシュさがあって、そのフレッシュな余韻ががつづく、ブラン・ド・ブランらしさはありますけれど…」

ジュリアンさんが、一杯飲みながら微笑む。爽やかな柑橘、軽やかなお洒落めのサラダが合いそうだなという印象から、少しずつミルキーな香りと深みが現れる。まさかラム・チョップ?ミルキーな脂のうまさが、最後、再び柑橘と共にさわやかに抜けていくという想像。

「あんこうにもあいますよ(微笑)」

エレガントだけで終わらないけれどエレガントであること。パワフルな筋肉を見せつけながらもタンクトップではなくちゃんときれいな(あつぼったいものではない)ドレスを着ること。相反する要素を、デコラティブではなく繊細に重ねていく。そこから生まれる新しい世界。

005「現在のワインメイカーはイザベル・テリエ。女性です。彼女のセンスが良く出ているとおもいます。前職はヴーヴ・クリコのエノロジストでした。その前のシェフ・ド・カーブは、エリック・ルベール。今のクリュグのシェフ・ド・カーブです。96年の我々の最高峰のキュヴェ『ルイ15世』は彼の作品。どちらのワインメイカーのテイストも楽しんでいただけますよ」

最高級の王族の朝ごはん。世界中から最高の材料を集めて作ったエッグベネディクトを軽やかにスモークした、そんな極上の朝に。プレスティージュの風格と威風堂々。しかし、若気のさわやかさを併せ持つルイ15世もまた、ドゥ・ヴノージュらしい相反するものを生かしながらも極上のバランスにしていく伝統か。

「我々のスタイルは長い余韻を重視。一方でフレッシュさも大事にしている、相反するものですが同時に求めていきたいのです」

「しあわせな時間」のための革新

007シェフ・ド・カーブの経験のない女性の登用。これはドゥ・ヴノージュにとっては大きな決断ではあったけれど、取り立てて大騒ぎされることでもなかったのかもしれない。伝統を守る一方で、革新的な取り組みは一家のDNAでもあるからだ。

「たとえば、従来、単なるボトルだったものに、初めてイラストのラベルをつけたこと。1840年には早くもニューヨークとの交易をはじめたこと。そこでニューヨーク州、五大湖の近くのバファローに畑を買ったこと。そこでサナトリウムを作ったんです。さすがにシャンパン風呂はなかったですけど(笑)」

ルイ15世のボトルのユニークなフォルム、スペシャリティラインアップのかわいらしいエチケット。ワイン作りだけではなく、カスタマー、シャンパーニュ好きに方々への楽しさを提供し続けてきたメゾンでもあるわけだ。しあわせな時間のための革新。では、ジュアリアンさん自身、ドゥ・ヴノージュがあるしあわせな時間とは?

「毎日飲むことですね(笑)。特別な状況だとしたら…コルドン・ブルーなら、仲の良い友人たちとの時間のシェア。長くあっていなかった友人との再会の場面は最高ですね。もちろん女性同士でも。ルイ15世なら子供の誕生のお祝い、ロゼならサクラタイム。04年のブラン・ド・ブランはトラディショナルな和食とも相性がいいですよ」

ドゥ・ヴノージュのシャンパーニュは健全なイメージ。いやらしさはあまり感じない。女性を口説くときに使う感じではないですね?とシュワリスタらしい質問をすると、

「さあ、どうでしょう?男性も女性も口説き文句が滑らかになるかも。何かが起こるかもしれませんよ」

ジュリアンさんのさわやかな微笑、この話題のときに飲んでいたのはロゼ。ピクニックにも似合う、可愛らしい梅の香りも感じながら、クレソンやスピナッチのほろ苦さも感じる。ファッションで言えばPAUL & JOEか。爽やかだけれどどこかボヘミアンなテイスト。艶の表現として心地よくひねくれた軽快さのあるロゼと、ジュリアンさんの言葉と心の中のウィンクに、このメゾンの豊かな、飲む人とのリレーションシップを感じた瞬間。

最後にシュワリスタたちへのメッセージを。

「ドゥ・ヴノージュは日本ではまだ有名ではないかも知れませんが、飲んでいただいて品質の良いシャンパーニュであることを感じていただけるはずです。ハッピーな場面に似合うシャンパーニュですし、気軽に触れていただきたいですね」

 

レポート:岩瀬 大二(編集長)
写真:sHwAlista 編集部
ドゥ・ヴノージュ 公式商品紹介
富士貿易株式会社
http://www.fujitrading.co.jp/ihq/brand/00000019.html

取材協力:tiQuoi
http://tiquoi.jp/

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