Home > 連載 > 聖地を巡る「朝、素顔のシャンパーニュ」
RUNNING STORY AT CHAMPAGNE 聖地を巡る
華やかさの理由と真髄を探るべく、シュワリスタ、シャンパーニュ地方へ
岩瀬大二(d's arena)
バブル入社組。酒と女と旅を愛する編集プロダクション代表。世界最高峰の世界遺産はイタリア女だ! とローマのの真ん中で叫んだ経験あり。企業SP、WEBサイト、携帯メディアなどでエディター、プランナー、ライターとして活動中。
photo: NORICO
Vol.1
朝、素顔のシャンパーニュ
08.5.30 up

シャンパーニュを訪れてはじめてのデギュスタシオン(*)は、朝10時からはじまった。2月とは思えない豊かな太陽の微笑が、清潔感溢れる可愛らしい洋館の2階、デギュスタシオン用の部屋に差し込んでくる。プレス担当のマドモアゼル・オードリーが最初の1本をグラスに注いでいく。

ここは『サロン/ドゥラモット』。素晴らしいシャルドネ種を生み出すコート・デ・ブラン地区、その中でも上品さと長期の熟成でも失われない瑞々しさを持つシャルドネが産出される「ル・メニル・シュール・オジェ村」にメゾンはある。日本でも近年、プレスティージュ ブラン・ド・ブランの代名詞ともいえる人気を誇る『サロン』、その兄弟ブランドとして高品質のシャンパーニュを比較的リーズナブルな価格で提供している『ドゥラモット』。この2つのブランドは、ドゥラモットを知ることでサロンの本当の魅力を知り、サロンを知ることでドゥラモットの真髄を知ることができる関係にある。

1本目は、ドゥラモット ブリュット NV。ドゥラモットの定番品だ。立ち上る香気。朝、クリアな舌と鼻、そしてコート・デ・ブラン地区の空気と陽光。なるほど、シャンパーニュと真摯に向き合うのは朝が一番いい。東京の夜にはまるシャンパーニュのマジックも良いが、ワインメーカーの想いを受け止めるならやはり朝に限る…のかもしれない。東京で飲みなれたドゥラモット ブリュットNV。素晴らしいミネラルと可憐な果実味、シャルドネを多く使いながらも黒ぶどうとのバランスもよく、とても良い意味でイージー・トゥ・ドリンクな存在。ついお作法を忘れてゴクと喉を鳴らして身体の中に落とす。そのときオードリーは天使の微笑み。
「長旅おつかれさまでした。これがシャンパーニュ地方にいらしたウェルカム・シャンパーニュですね」
長旅の疲れが見事に解けていく。ドゥラモットという作品と彼女の笑顔、素晴らしいマリアージュ。

プレスティージュ・ブランドとしての知名度が高いメゾンだが、その建物は実に可愛い、プチホテルの趣。

サロン/ドゥラモットを訪問した前日、私たちはシャンパーニュに入った。16時30分にシャルル・ド・ゴール空港(CDG)に着き、パリ市内を経由せずダイレクトに、新たなシャンパーニュ地方の玄関口となったTGV シャンパーニュ=アルデンヌ駅へ。そこからローカル線に乗り換え、さらにランス駅からタクシー、7日間のシャンパーニュ探訪のベースキャンプとなるアイ村のプチホテルに到着したのは22時近く。その翌朝向かったのが、ここサロン/ドゥラモット。

アイ村からエペルネ市街を通過し、県道3号線から9号線、シュイィ、アヴィズといずれもグラン・クリュ村を通り、アウディの送迎車で30分。これでピックアップしてくれた車がルノーかプジョーならもっと気分が良かったかもしれないが、それでもコート・デ・ブラン=白い丘の短いドライヴを堪能しての到着だった。

ここが素晴らしいシャルドネを生み出す畑。2月の訪問時にはもちろん房はないが、この光景が見られるのも貴重。「オフシーズン」ならでは。

デギュスタシオンは、『ドゥラモット ブラン・ド・ブラン NV』、『ドゥラモット ブラン・ド・ブラン 99』、そして『ドゥラモット ブリュット ロゼ』と続く。不思議と朝の舌、鼻、喉は疲れを見せない。むしろ元気さと鋭敏さを増していくような感覚さえ起きる。もちろんドゥラモットが持つ美しいミネラル感のおかげもあるのだろう。特にブラン・ド・ブラン NVのドライ、ライトストレート、そしてフェミニンな世界は、まさにこの村の真骨頂を感じさせるものだった。

そして、今朝5本目、最後は『サロン 96』。デギュスタシオン前にカーヴの見学をしたが、その際に「今日出荷される、この一箱が96の最後です」というガレージ横にポツンと置かれた木箱を見ているだけに、感慨深くグラスと向き合った。ちなみにその一箱には、日本のあて先が書かれていた。

通産36ヴィンテージ目、95年から3年連続となる『サロン 97』がこの5月に登場し早くも話題になっているが、96のフレッシュさは全く失われていなかった。酸の力強さはありながらもグリーンアップルのような可憐さ。最高級プレスティージュとしては、他のメゾンに比べてどこか儚げで繊細だが、その可憐さこそが官能的。強いパンチやどこまでも深みにはまるような複雑極まりない熟成感、大脳を直接刺激するような官能とは違う印象。オードリーは、シーフード、ロブスター、コッド、オリーブオイルというあたりを推奨マリアージュとして上げていたが、そうか、もしかしたら、解放された陽光の朝とのマリアージュこそ、サロンの艶を感じるのに最適なのもしれない。

プレス担当のオードリーさんからレクチャーをいただく。フレンドリーながらブランド哲学を語るときの視線はなかなか鋭い。

「朝シャン」という言葉がある。これは、休日のブランチタイムにシャンパーニュを楽しむということだが、どこかセレブリティなライフスタイルのイメージで、個人的には乗り切れないところもあった。それでも朝からシャンパーニュを飲むのは幸せだった。

その理由が分かった。朝こそ、シャンパーニュの本質に向き合える。夜、さまざまな欲や見栄で自分を飾って踊り明かした朝、すべての鎧、化粧を取り去って自分の素に立ち返る。ときにそれは残酷な現実を自分に突きつけるかもしれない。でも自分に還る時間はやはり幸せなものだと思う。そこでしか見えてこない現実がある。そこから感じられる幸せがある。朝の太陽は全ての嘘を見抜く。朝、シャンパーニュに向き合うこと。これはとても幸せなことなのだ。

オードリーの笑顔に送られ、我々はランスへと向かった。

ファン垂涎のオールドボトルがギャラリーにはズラリと並ぶ。設立当時から実にモダンなメゾンであったことをこのデザインからも感じられる。

*デギュスタシオン: テイスティング

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