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INTERVIEW

ペリエ ジュエ 最高醸造責任者インタビュー
この宝石を次代に受け継ぐために

本年2度目の来日となった8代目セラーマスター セヴリーヌ・フレルソンさん。前回は箱根での彼女が新しく提案したエクスペリエンスに驚かされた。(記事はこちら シュワリスタ・ラウンジ | REPORT | ペリエ ジュエ新セラーマスター 優美、可憐さの裏側の情熱 (shwalista.jp))。

今回は「ペリエ ジュエ ベル エポック 2013 120thアニバーサリーエディション」のお披露目のツアー。ハイライトとなったのは、東京・六本木「オーベルジュ・ド・リル・トーキョー」で3日間にわたって行われたイベント。アート、自然、ワインというセヴリーヌさんが考えるペリエ ジュエの柱が再現された、シアトリカルな仕掛けと、しかし、それが決して大げさにはならない慎ましさの中、「ペリエ ジュエ ベル エポック 2013 120thアニバーサリーエディション」をはじめとするペリエ ジュエ ベル エポックのこれまでの歩みをしっかり感じられる名作シャンパーニュを堪能した。箱根での自然に囲まれたエクスペリエンスとは全く違うものではあるけれど、どちらもやはりペリエ ジュエ ベル エポックの世界。

SHW_Report_221102SHW_Report_221103「ペリエ ジュエ ベル エポック 2013 120thアニバーサリーエディション」は、通常の2013年ヴィンテージとは味わいが異なる。アニバーサリーエディションには、メゾンが誇るクラマンのグラン・クリュにあるブーロン・ルロワの象徴的な区画からのシャルドネのみを使ったリキュール・ド・ドザージュが最後に加えられることによって誕生。これだけで、2013年の春の優しい表情から、澄み切った心地よく凛とした冷気の中、抜けるような青空の銀嶺を見るテラス、なんていう全く違う世界へ連れて行ってくれる。これが「セヴリーヌの魔法」なのか。それはこれからまた追いかけたくなるテーマ。

イベントで隣席の機会を得ていろいろな話ができ、さらに後日、前回記事では追い切れなかった、ペリエ ジュエのセラーマスターとして考えていること、やっていきたいことについて訊く機会を得た。見た目の印象を持ち出すのは好ましいことではないけれど、清楚、品位を感じさせるセヴリーヌさんの意外な一面、そして歴史あるメゾンを引き継ぐ上での静かな決意について紹介しよう。

Sh:「ペリエ ジュエ ベル エポック 2013 120thアニバーサリーエディション」のプロジェクト、そしてツアーはどのような思いで取り組まれましたか?

セヴリーヌ・フレルソンさん(以下SF):120周年という人生で唯一の機会。だからこそ他にはないシャンパーニュを造りたいと思いました。ペリエ ジュエと言うメゾンにとって大切であると同時に、私自身においてもセラーマスターとして大切なものです。確かに大変なプロジェクトではあります。逆に言えばそれだけやりがいのあるもの。私はエネルギーを持っているダイナミックな人間なので、あっていると思います(笑)。このプロジェクトの様々な仕事に対してチャレンジ精神をもって取り組んでいきたいですね。

Sh:そういえばイベントの際も、シャンパーニュでの仕事に就いた当初の2003年のようなエクストリームな状況で戦うのが好きとおっしゃっていましたね。セヴリーヌさんの雰囲気からは戦いとかという言葉は見えなくて…。

SF:どう見えてましたか?(笑)。難しいとは思わないんです。チャレンジするのは楽しいことですから。

Sh:その姿勢やチャレンジ精神は、持って生まれたものでしょうか? キャリアの中で鍛えられたものでしょうか?

SF:小さいころから、変わらずそうだったと思います。

SHW_Report_221104Sh:今回のアニバーサリーエディションはボトルデザインの配色がいつも以上に華やかで力強さを感じさせ、でもところどころにかわいらしさもある。ドサ―ジュについてもチャレンジされた。長い歴史を感じさせながらも大胆さや変化も感じられる気もします。セヴリーヌさんは、ペリエ ジュエに入る前、アネモネのボトル、そしてペリエ ジュエを外から見てどう思われていましたか?

SF:ペリエ ジュエと言うブランドはとてもエレガントで、精緻で、複雑さに溢れ、光り輝く……こうしたアイデンティティーが強く感じられる存在でした。シャンパーニュの中でも常に観察、注目されています。外から見ていてもアート、自然、ワイン、この3つの柱がペリエ ジュエでしたね。私の目から見てもそれは明らかでした。ペリエ ジュエに入った際に、これをさらに強めていこうと思いました。例えばエミール・ガレをはじめ、以前からアーティストとの関係を大切にしてきました。芸術と自然の融合はペリエ ジュエが先駆けてきたもの。今回のコラボレーションも同様です。
そしてワイン。エデンと呼ぶ私たちのカーヴで1825年のワインと出会うことができました。眺めて、触れるだけで、創業者であるピエール・ニコラ・ペリエの思いが伝わるかけ替えのない体験。今、私が8代目としてここにいること、それだけで感激です。さらに先日、1874年のキュヴェをいただく機会がありました。クリスティーズのオークションに出品されたもので、落札された方がセラーに訪問されて、一緒に味わったのです。素晴らしい体験でした。この時、私の仕事はこの歴史を次の世代に引き継いでいくことなんだなと感じました。まさに歴史が詰まったメゾンです、私が仕事をしている拠点、それそのものが歴史ですし、そこで働くという状況もまた歴史になります。

Sh:スタートから次への責任が芽生えた。

SF:私たちセラーマスターの仕事と言うのは「継承していく」ということですので、今、私が守っているもの、それは次の世代に受け渡していくものなんですね。それはいってみれば「時間の継承」です。今、自分の中にその宝物があるというのはとても素晴らしいことです。

Sh:10年後にこの話を思い出して記事を書けたらいいなと思います。それにしてもこうした歴史のあるメゾンの8代目、プレッシャーも……あ、プレッシャーは感じないんでしたね(笑)

SF:ええ(笑)。ストレスと言うのは全くなく、こういう機会を与えていただいていることは本当に幸せなことだと思います。これまで大切に受け継がれてきた宝石を次代に渡せること。私が日々働くその足の下に素晴らしいワイン、歴史があるわけです。

Sh:普通なら宝石と言うより重石に感じるようなものだとも思いますが?

SF:ぜんぜん!むしろ誇りです。

Sh:箱根、先日のイベント、そして今日。こうやってお話をしているとペリエ ジュエにずーっといたかのような雰囲気を持たれていますね。

SF:ありがとうございます。まだ日は浅いのですが、それだけまだ多くの時間が残っています。この素晴らしい毎日を大切にしていきたい。また私自身、とても楽観的な人間ですので、私から見ると問題と言うのはなくて、あるのは解決。様々なプロジェクトも楽しいです。その任に当たることも大好きです。この美しいブランド、メゾンのプロジェクトを今後も続けていきたいですね。

SHW_Report_221105Sh:キャリアを積んできたメゾンはペリエ ジュエのスタイルとはまた違う個性、スタイル、ブランドイメージを持っていると思います。違和感といいますか、違いに戸惑うことはありませんでしたか?

SF:それぞれスタイル、カラーは違いますね。ただ、ペリエ ジュエのフローラル、エレガンス、そしてシャルドネを軸としたスタイル、また自然、アート、ワインと言う柱があって、むしろ私の価値観はここにあるんだと感じました。私にとってはペリエ  ジュエに入るというのは、クリア、明瞭なものでした。まったく怖さも不安もありませんでした。新しいメゾンに入るというのは手袋をするようなものだと思います。それがすっと入った。体に、肌にあう。そういう感覚でした。

Sh:得たものがあったからこそ感じられてことなのでしょうね。アートの部分をはじめ、セラーマスターの仕事の範囲としてとても広いメゾン。それも含めて喜びになるのでしょうか?

SF:そうですね。ペリエ ジュエのセラーマスターとしての豊かさというのはあらゆる部門のみなさんとかかわっていけることです。ブドウ畑のみなさんとともに育て、収穫し、ワイン造りの工程で仕事をし、それだけではなくマーケティング、コミュニケーション、市場調査、スタイルの構築、広報・宣伝と各部署のみなさんと連携しています。そしてみなと同じ方向を目指していくこと。ペリエ ジュエは全員で前進していく。

Sh:セヴリーヌさんは「畑の人」だと思いますので、マーケティングとは相反する部分もあって、こだわりがぶつかっていくこともあるのではと思います。そこを決断していかなければならない。

SF:確かに。私は大地の子です(笑)。だから栽培のネットワークもありますし、プロセスも理解しています。マーケット側から求められていることができないと思われる場合でも、それならこういう方法があるという提案もできますし、いつでもソリューションは持っています。それもみんなで取り組んでいく。こういうということわざがあります。「一人だったら早く行ける、みんなだったら遠くへ行ける」。

Sh:長らくセラーマスターを務めた7代目、エルヴェ・デシャンさんとの競作から、いよいよセヴリーヌさんの新しいチームでの創作が始まります。指針などはありますか?

SF:新しいチームを引き継ぎましたが、エルヴェと一緒に仕事をしていたメンバーは全て残っています。ディギュスタシオンに関してはそこに2人の女性を加えました。男性と女性がそれぞれディギュスタシオンをすることはとても大事だと思うんです。お互いに補完しあえる。現在6名で行っていますが、プロフィールも異なるメンバーで構成しています。
いくつかプロジェクトも予定されていますし、新しいキュヴェの……まだ話せないことばかりなので、楽しみにしていてください(笑)。少しでも早く、良いお知らせをしたいと思っていますので。

Sh:最後に読者にこう楽しんでほしい、愛してほしいというメッセージを。

SF:ペリエ ジュエのシャンパーニュはそれぞれスタイルがあります。その中でテクスチャーにも注目してください。例えば花びらのテクスチャー。花に触れるという行為は小さいころからしていることだと思いますが意識はしていないかもしれませんけれども…。今回の日本滞在で2軒のお花屋さんに行き、コスモスなど日本の花を見て、触れるという体験をしました。季節ではありませんでしたので次回は菩提樹、桜にも触れてみたいですね。今までとは違うワインのアプローチ。世界のそれぞれの地域のその季節の花と触れることで新しいワインへのアプローチが生まれてくることでしょう。キュヴェごとにテクスチャーが違いますし、すべて繊細なシャンパーニュですからそれを感じやすいかと思います。ぜひみなさんも楽しんでみてください。

SHW_Report_221106精緻だけれども気さくな温かみ。静かながらチャレンジ精神あふれる戦いの人。大地の子であってアートとコミュニケーションの人でもある。シュワリスタ・ラウンジが常に求めるシャンパーニュの二面性を体現する人。話をしていくたびにそのような思いが強まっていく。プロフィールを紐解くと、彼女が特別な親しみを抱いているのが、ピエール・ニコラ・ペリエと共にメゾンを創立したローズ・アデル・ジュエなのだそうだ。ローズ・アデル・ジュエは、メゾンの案内人として、訪問者たちを迎え、メゾンそしてキュヴェを紹介するという役割を果たしていたという。それは、セヴリーヌさんが大切にする、人と人との交流、多文化が共生していくということにつながってく。
多様な役割を担うことを喜びとできること、畑の真実と世界に広げていくコマーシャルの部分をつなげていくこと、男性女性年齢出身地という枠を壁ではなくむしろしなやかな関係として、みんなで「遠くへ行くこと」、シャンパーニュの地だけではなくコスモスや桜からインスピレーションを受けること。ペリエとジュエの2つのキャラクターを自分の中で。
これからのセヴリーヌさんのチームによるキュヴェ、そして様々なプロジェクトの一報を楽しみに待とう。

 

Text: daiji iwase

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