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sH レポート
業界向けの試飲会やイヴェントの模様、インポーターやメゾンの話題などを、シュワリスタ視点でレポートします
Vol.23
10.12.3 up

『モエ・エ・シャンドン
グラン ヴィンテージ 2002』
最高醸造責任者 ブノワ・ゴエズ氏
インタビュー

text/photo: 藤田礼子
取材協力: MHD モエヘネシー ディアジオ株式会社

sH エクスクルーシヴ インタビュー

モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージから待望の新ヴィンテージ 2002がリリースされた。2年前に発表された2003年からの逆転リリースとしても注目を集める今回のグラン ヴィンテージ。シャンパーニュを代表するトップメゾンを率いる若き俊英は、グレートヴィンテージとしての誉れ高い2002年の葡萄からどのような個性を引き出したのか。表参道「鮨きどぐち」にて、最高醸造責任者ブノワ・ゴエズ氏に話を聞いた。

史上最年少で最高醸造責任者に抜擢されて5年目、そして今年40歳になられましたね。ご自身にとってもひとつの区切りの年のリリースだと思うのですが、特別な思いはおありですか?

BG: 自分が初めて手懸けたグラン ヴィンテージ 2000から追求してきたクオリティのスタンダード、将来に向けての新しいベンチマークを設定できた年という意味での特別感があります。ですが、僕にとってはどのヴィンテージも可愛い子ども。すべてのヴィンテージに対して同じだけの深い愛情を注ぎ、それぞれのヴィンテージの葡萄の個性やオリジナリティを追求してきました。00は「統一感、安定性、ハーモニー、クリーミーさ」、03は「個性、パワフル、熟成感」、そして今回の02では「調和とハーモニー」。自分のテイスティングした感覚によってどのように作り出すかは、創造の楽しみでもありますね。

さっそく試飲させていただきましたが、ブランはシャルドネの配合が高いのですか? エレガントさが印象的で、高貴で洗練された味わいですね。

BG: ヴィンテージを造るためには、まず十分に良い天候の年であることが条件になりますが、02は3種類の葡萄が均一して非常によく出来た、まさに完璧な年になりました。その中でも、特にシャルドネが熟成感とクリーミーさに富んで魅力的なので配合を高くしています。95、96以来のベストヴィンテージ。葡萄は成熟して明るく、熟成には7年をかけました。ワインのテクスチャーとしては丸みがあって滑らかな、本当に非の打ち所のないヴィンテージです。

03の後に02をリリースされたのにも驚きました

BG: モエ・エ・シャンドンのヴィンテージの熟成には通常5年をかけていますが、7年もの長期熟成をさせたのは1930年以来のことです。実は、2年前にリリースを計画していたのですが、02と03年を飲み比べた際、まだまだ成熟する可能性があると感じて、それを頂点まで持っていこうと判断したのです。その結果、バランスが良く、複雑性に富み、リッチでバランスのとれた、まさに今飲んでいただきたいシャンパーニュになりました。

確かに、リリース直後からこれほどバランスが良いシャンパーニュも珍しいと思います。ドザージュが少ないように感じますが、近年のトレンドを意識されていますか?

BG: 2000年から続けてきた意図的な試みとして、ヴィンテージの個性、熟成年数、そして低ドザージュがあります。今回はブラン、ロゼともに5.5g/Lとなりましたが、これは、酸味を強くするためではなく、軽快でピュアな印象を追求した結果です。この風味が熟成感と合わさることによって一層美味しくなるのです。

ドザージュを軽くする理由として、昨今の地球温暖化も関係しているのでしょうか?

BG: 明らかに関係しています。近年、収穫期における糖分と酸味に影響がでてきています。40年代から88年迄は葡萄中の糖分が低下していたのですが、88年からは糖分が上り、酸が下がってきています。でも、シャンパーニュにとっては成熟した葡萄が取れるということなので、とても良い傾向なのですよ。また、低ドサージュについては、ブリュット・アンペリアルについても行なっています。2005年では13gでしたが、2年前から9gになっています。

市場では自然派シャンパーニュに注目が集まっていますが、この動きをどのようにご覧になりますか?

BG: 最近の消費者の皆さんは、クオリティや味だけではなく、どのように作られているかということに関心をもたれているようですね。メゾンとしては、あくまでも美味しいものを造らないと受け入れてもらえないので特にアピールはしていませんが、モエ・エ・シャンドンはシャンパーニュ造りのパイオニアとして、かなり早い段階から環境に対する取り組みを行なっています。自然を守ることは当然の義務として、1990年代からリュット・レゾネ(減農薬農法)を導入しています。グラン・ヴィンテージのみならず、全ての製品はリュット・レゾネで作られているんですよ。そして、二日酔いの原因とされる亜硫酸。実は、シャンパーニュの中ではモエ・エ・シャンドンが一番少ないのではないでしょうか。だから、世界中の人に愛されて一番飲まれているんですね。また、ボトル軽量化についても今年から初めていますので、2〜3年の間には市場に出て行く予定です。

とてもバランスのとれたヴィンテージ 02、お薦めのマリアージュを教えてください。今日は寿司シャンを楽しませていただいていますが、お薦めのネタはどれですか?

BG: 赤貝の歯ごたえはロゼに合うと思いますね。今回、赤ワインを27%ブレンドしているのですが、これは他のヴィンテージに比べると非常に高い配合でストラクチャーがしっかりしています。

歯ごたえ、ですか。マリアージュは、香りと香りを合わせるのが基本だと思っていました。

BG: シャンパーニュと食事を合わせる時、香りだけに注目していると見失ってしまうものがたくさんあります。口の中感覚はとても大切ですね。うまみとか歯ごたえとか。飲んで食べるものですので、その辺りの感覚を考えてマッチングさせてほしいと思います。歯ごたえで合わせるのなら、白にはリッチでクリーミーな丸い食材、ロゼにはアングルを感じる食材が合うと思います。

甘いものにはどうでしょう?

BG: デザートとはあまり合いませんね。見た目がお洒落だからという理由で甘いデザートを合わせてしまいがちだけど、それは大きな間違いです。シャンパーニュとのマッチングはとてもシンプルで、甘いものには甘いものが合う。見た目の美しさだけで、糖分が少ないシャンパーニュと合わせてしまうと口の中が荒々しい感じになってしまいます。果物と合わせるのは良いと思うけれど、シトラスの甘みを感じるシャンパーニュと酸味のある果物と合わせると「大惨事」になってしまうので気をつけてくださいね。先ほども申し上げましたが、香りにだけに注目して合わせると多くを見失ってしまいます。甘い、酸っぱい、辛い、苦い、うまみという感覚を大事にしてください。

それでは、そろそろシュワリスタ恒例の質問をさせていただきます。02の味わいを女性に例えると?

BG: 際立った個性を持つ00、03に比べると、より完成されたマルチカルチュラル(多様性)な女性だと思います。どんな場所や機会にも対応できる、そういう意味では都会的な女性と言えるのではないでしょうか。

今後、バックヴィンテージの92を発売する計画をしているようですが、02とはどんな共通点があるのですか?

BG: 1992年は2002年と非常に似ていて、収穫が安定・統一していました。すべての村で葡萄の成熟レベルが良く、非常に調和のとれたハーモニーのあるワインに仕上がっています。

なるほど、バックヴィンテージにも期待が高まります。本日はどうもありがとうございました。

Line Up

Grand Vintage 2002

グラン ヴィンテージ 2002

アッサンブラージュ: CH 51%、PN26%、PM23%
ドザージュ: 5.5g/L
デゴルジュマン: 2009年11月

トースト、穀物の温かい香りとフランジパーヌ、炒ったアーモンド、モルト、モカ、そして軽いタバコのニュアンス。熟した果実のニュアンスに続き、梨、砂糖漬けの柑橘類、プラム、ネクタリンそして白桃のニュアンスが広がります。口に含むと、しっとりした緻密な構成があり、ベルベットのようななめらかさが広がる。明快な切れ味のあるフィニッシュと軽快なトニックのような鮮やかな風味と柑橘類のニュアンスがあります。

Grand Vintage Rosé 2002

グラン ヴィンテージ・ロゼ 2002

アッサンブラージュ: PN 51%(内、赤ワイン27%)、CH28%、PM21%
デゴルジュマン: 2009年5月

さくらんぼ、プラム、生イチジクのアロマに、ベリーのニュアンス、長期熟成によって醸しだされる微かなスモークモルトの香りと丁子、シナモン、甘草の暖かい香り。ミントやバラなどの植物や花のニュアンスを持ち、口に含むと明確な構成を感じる。意図的に軽くされたドザージュはフィニッシュに爽やかな切れ味とはっきりした印象を与えます。

sH

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