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REPORT

土地を宝に、家族の物語を作品に~フランス グラン・テスト商工会議所主催試飲商談会レポート

フランス グラン・テスト商工会議所主催による『シャンパーニュ&アルザス地方 ワイン・スピリッツ試飲商談会』が7月2日、東京・虎ノ門の<W Toranomon>にて開催された。グラン・テスト地域圏は、かつてのアルザス、シャンパーニュ=アルデンヌ、ロレーヌの各地域圏を包括する地域とのことで、同地域圏を代表するワイン・スピリッツ産地であるシャンパーニュとアルザス地方の製品を日本の酒販業界に紹介する目的で行われ、会場には、シャンパーニュ4社、アルザスワイン7社、アルザス産スピリッツ1社の計12社のアイテムが並んだ。

シャンパーニュでは未輸入の3社、1948年創業、モンターニュ・ド・ランスで環境に配慮したサステナブルなシャンパーニュ造りを行っているという『Champagne JACKOWIAK -RONDEAU(ジャコヴィアック・ロンド―』、コート・デ・バールで1992年以来ビオディナミのシャンパーニュ造りに取り組む『Champagne REAUT(レオ)』、創業1926年、4代にわたり家族経営を続ける『Champagne Mondet(モンデ)』、そして既輸入ではシュワリスタにはおなじみ、新たな日本でのチャネルを探す『Champagne Devaux(ドゥヴォ―).』が出展。いずれも発見のあるシャンパーニュだった。

まずは『ドゥヴォ―』。以前当サイトで、セラーマスターのミシェル・パリゾ氏のインタビュー記事を公開し、ブランドの背景、驚きと納得の出会いについて紹介したが、今回改めていくつかの新しいシャンパーニュを試飲して、さらにうれしい驚きがあった。
そのひとつが『STENOPE 2013 extra-brut』。熟成感がありながら、ピュアな仕上がり。濃厚と言ってもいい風合いながら余韻にはキリっとした爽やかさが抜けていく。シャルドネ50%、ピノ・ノワール50%を100%オーク樽で発酵。ブルゴーニュのネゴシアンのアイデアを取り入れて造られた。輸出営業部長のジラール・ジャン=ノエルさんは「私たちはいつだってオープンマインド。ブルゴーニュとはわずかの距離ですからよきアイデアは生かしたい」という。ただし、パリゾ氏もジャン=ノエル氏も口をそろえるのは「私たちはコート・デ・バールのアンバサダーでありたい」ということ。オープンマインドも進取の取り組みも、コート・デ・バールであるために。その心意気と信念は全てのアイテムから伝わってきた。
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同じくコート・デ・バールの『レオ』。ピノ・グリとピノ・ブランを樽熟成させた、コート・デ・バールという場所の「らしさ」と「これから」を感じさせるアイテムでまず驚かされたのだが、続く「TRADITION brut」はここ数年でも出色の出会い。2020年のピノ・ノワールとリザーブワインから造られ、こちらはステンレスを使用。香りだけで引き込まれる。探求心もあるのだけれど、まずはしばらくこの時間を楽しみたいという気持ちが高まり、なかなか飲めない。試飲・商談会のざわついた中でもこれだから、一人で楽しんでいたらどうなっていただろう。引き込まれるといっても熟成感や、神秘的、官能的というものではなく、とにかく心地よい。まず可憐で可愛らしさがあって爽やかさもある。奔放ではなく、しっかりしたフィネスがあり緻密でエレガントさもある。王道のシャンパーニュという雰囲気を感じ始めると、すっとエキゾチックさが花開く。白桃や洋ナシといった定番の香りから、パイナップル、ライチ、ドラゴンフルーツへ、世界中の白い果物を盛ったような楽しさ。複雑さはあっても押しつけてこない爽やかさであり奥ゆかしさが続く。味わうと酸は強くなく香りの印象が続くが決して甘すぎる感覚はなく、ビオディナミによるものか、ぶどうそのものの素朴な甘さが心地よい。冷やして朝、温度が少し上がれば大ぶりのグラスで夕方、アペロスタート。浮かぶペアリングは、和の一仕事をした白身魚。出汁+マリネも面白そう。

「クラシックでありながら何かプラスアルファを与えたい」とヴィニュロンのレオ・アレクサンドルさん。シャンパーニュらしさはしっかりありながらどこか新しさを感じられるこのアイテムはまさに狙い通りのものだろう。ペアリングについても「私もバターやクリームといったフランスの料理よりも、むしろ日本の食の方があっているのでないかとも思います。それにフランスと日本はシャンパーニュと食事のマリアージュを楽しむ文化がある。これはなかなかほかの国ではないことです」。乾杯、セレブレーションだけではなく、じっくりと食と楽しむという文化をレオさんは大切だと考える。このトラディションは期間限定でANAのファーストクラス・ラウンジで採用され近日登場予定。これを足掛かりに日本への進出を図る。「日本人の感覚で楽しんでいただくために、日本人シェフで、日本の食とのマリアージュ提案できる人を探しています」とのことで、実現が楽しみだ。
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『ジャコヴィアック・ロンド―』は、ランスの西南に広がるプティット・モンターニュ・ド・ランスで近隣のいくつかの小規模生産者とリソースを分かち合い、助け合いながらシャンパーニュ造りに取り組む。ガイドしてくれたジャコヴィアック・ジュリエットさんは3代目。ルーツはポーランド。第二次世界大戦でフランスに来たポーランド人士官であった始祖が、戦後1947年、シャンパーニュ造りをしていたロンドー家の娘と結婚。こういう物語もシャンパーニュを楽しくする。テイスティング前に「ポーランドと言えば良質なウォッカとミード(はちみつのワイン)が好きですよ」と脱線気味の話をすると「ポーランドの親戚の家に行くときはシャンパーニュをお土産にして、ポーランドからはウォッカを持って帰ります」と笑顔。シャンパーニュをテイスティングすれば、どこかその笑顔のような柔らかさ。特に『Brut Nature/Pure Expression』と『Cuvee L’emblem/House Signature』は、ムニエのピュアな柔らかさが、ピノ・ノワールの骨格とシャルドネの緻密な美しさとともに交互に現れ、単に溶け合うのではなくそれぞれの良さが現れながらまとまっている。表に出る性格や行動は違うけれど一つ屋根の下で仲良く、まっとうに暮らす3きょうだい。いつものスープにいつものパンを食べながらのお昼……なんて心癒される妄想。
04一転、驚かされたのが『Blanc de Blancs』と『?』とボトルに書かれた2つのアイテム。ブラン・ド・ブランは、「ムニエの土壌で育てたシャルドネ」を使用。それがどう味わいに反映されているのかはつかめなかったが、ほのかなオーク樽のアロマ、味わいがあり、この点を聞くとジュリエットさんは微笑。「そう、樽の感じがすると言われることが多く、混乱される方もいらっしゃるのですが、樽は使用していません。この独特の風合いは、私たちの畑が森に囲まれていて、その自然環境によるものなんです」。夫婦そろって農業エンジニアで博士号を取得。土地の最適化や環境との共生は研究テーマで、シャンパーニュ造りは実践の場でもある。どこまで科学的な事実があるかはわからないけれど、森に囲まれたシャンパーニュ畑は一度体感してみたい。『?』は、ジュリエットさんのささやかないたずら心か「ドサ―ジュはどれくらいだと思いますか?」。繊細な泡、スッキリした味わい、果実味も小気味いい小粒の快活さを感じ、それが滑らかにまとまっている。3g/L前後?と答えると「17g/Lです」と、どうやらしてやったりの表情。これも畑の環境からの混乱だというが、こちらの知識や経験からは不思議しかない。ポーランドがルーツとなればもしやリキュールにも謎が?と前のめりに聞くと「明かせないのですが、行政に出すのが面倒なくらい細かくいろいろで(笑)」。ちなみにこのアイテムは『Cuvee Tradition』。年間7000本のリリース。森の中の謎の調合。なにか不思議さも楽しい。

深堀をそれほどしていなくても時間が足りず、『モンデ』は駆け足になってしまったが、ここでユニークだったのは、コンクリートタンクを使用すること。この日の5アイテムのうち2つはステンレス、1つは400Lのオーク樽、『GRANDE RESERVE』、『BRUT NATURE』『BRUT INTENSE』の3アイテムはコンクリートタンク。コンクリートタンクでリザーブワインの保存と3ヴィンテージのアッサンブラージュを行い、4年以上澱とともに寝かせる。面白い取り組みですねと聞けば、マネージャーのモンデ・リーヌさんは「掃除もステンレスのほうが簡単だし誰も使ってないですよね」と自嘲気味に笑うが、いずれも飲みごたえがしっかりありながら、ふわっとした風合いも心地よく、酸も柔らかい。ドライではないということではないが、シャープさや緻密さ、透き通るようなミネラル感を求める方からすれば逆方向か。小ぶりなグラスで、パテ・ド・カンパーニュや野菜のゼリー寄せのような飾らない料理とともに。秋冬の金沢、魚のあっさりした煮つけや治部煮なんて料理も浮かぶ。そこまで高級ではないけれどちゃんとした料理旅館で家族や友人と過ごす場面もいい。ちょっと饒舌になったところでリーヌさん、「ありがとう(笑)。まあ、1970年にお父さんが作ったものをそのまま使い続けているだけなんですよ。もちろん、ステンレスよりもタンクの中での空気による変化を求めてはいます」。サイズを聞けば、驚愕の200ヘクトリットル(20000l)。画像を見せていただくと巨大な壁のようなタンクに驚く。飲みごたえと心地よさの要因のひとつに、確実にこの引き継がれたコンクリートタンクがあるのだろう。
03テクニカル的に興味を持たれる方もいるだろうし、新たなオケージョンやペアリングに心弾む方もいるだろう。まだ日本で知られていないシャンパーニュがあって、再び日本での展開を図る名門の新しい取り組みもあった。昨年に続いてまたも面白い出会いがあった機会だった。

 

Champagne JACKOWIAK-RONDEAU :
https://www.champagne-jackowiak-rondeau.com/

Champagne Mondet :
https://www.champagne-mondet.fr/index.php

Champagne REAUT :
https://www.champagne-reaut.fr/fr?lang=en

Champagne Devaux / S.D.U.A. :
https://www.champagne-devaux.com/

※アイテム表記は当日の資料のまま使用
Text: daiji iwase

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